コバルト文庫・今野緒雪「マリア様がみてる」第1巻のストーリーを、TVアニメシリーズの声優陣が完全ドラマCD化。TVアニメ版では1〜3話、漫画版では第1巻、要するに祐巳が祥子さまからロザリオを受け取るまでのお話。物語の詳細は省きますが、要するに「お嬢様学校に通う普通の高校1年生の主人公が憧れの上級生と特別な関係になる話」ですね。原作者公認の「ソフト百合」です。以下、原作既読者を対象にしたネタバレ感想ですのでご注意を。
で。感想を一言で言うと、非常に「惜しい」です。良いところはとても良かったんです。2巻を買った時に、2巻を聴く前に1巻を聴き直してみたんですが、最後祐巳が登校した直後にクラスメイトに囲まれて「祥子さまをフったって話、どうなの?」って訊かれて、「祥子さまが私なんかを本気で妹にするはずないじゃない」と泣き出す場面では俺もホントに泣いてしまいました。
その他のシーンも、アニメと違って画が無い分、役者たちも自分の感情、自分の間で思い切り演技が出来て、それが良い方に効果を挙げています。もちろん祐巳役の年の若い植田は微妙に間が取れなくて先走ってるところもありますが、それも許容範囲。逆に祥子さま役の伊藤美紀(40代)の声が女子高生に聞こえないとか、祥子さまの完全無欠のお嬢様言葉のニュアンスを完全には把握しきれてなかったりとかありますが、それもまだ許せる。
あと個人的にはロサギガンティア、豊口めぐみの演技がアニメの時からツボです。「遊び」みたいなものが的確に表現出来る人ですね。ジャンルで言えば、ゲームソフト「リンダキューブ」で本領を発揮した高山みなみとか近いでしょうか。「鋼の錬金術師」のウィンリィみたいなキャピキャピした役が多い印象がありますが、こういった役も是非色々演って欲しいです。
では何が「惜しい」のかといえば、まず軽いところでは山百合会以外の声優陣の喋りがだらだら長いこと。画がないことの功罪ですかね。山百合会の薔薇さま方は貫禄とか含みとかいう面で多少落ち着いた喋りの方が合うんですが、一般生徒まで同じペースだと間延びするし、日常会話として聴いてても不自然。
そして強く感じたのが、原作からの脚色の仕方が「惜しい」。この「マリみて」という作品に於ける感動のツボは心得てるつもりでいると思うんですよ。それに実際TVアニメ版に比べれば全然的確。前述の祐巳が泣くシーンも、そこで感情が昂ってついには泣いてしまうまでの心の動きを祐巳のモノローグでしっかり描いていて、しかもそれがくどさを感じさせない。
でも、惜しかったのは2巻に入ってから。まずは銀杏の林になっている講堂裏でお弁当を食べている祐巳に祥子さまがシンデレラの台本を渡しに来るシーン。志摩子さんが「あの方、ギンナンお嫌いだから」と言った後、「男嫌いで同情されるのが嫌い、桜が嫌いでギンナンが嫌い」と言うのは、こともあろうに蔦子さん。そこ違うんだってば! 祥子さまの嫌いなモノを一つ一つ挙げていくのは祐巳じゃなきゃいけなくて、それには好きな人の記憶を一つ一つ指折り思い出す、恋する乙女の一人遊び感が含まれていなきゃ嘘なんだってば! でもって最後に、「そんな場所にわざわざ台本を蛍光ペン入りで届けてくれるなんて、似合わないことをしてしまう祥子さまは、やっぱり格好いいんだ」って言わせることで、「片思い相手の男子が体育の時間に活躍すると恋人でもないのに我が事のように女友達に自慢してしまう少女」のようなちっちゃくて微笑ましい自己満足感が描かれないといけないんです。
あとは具体的な事実の齟齬。音楽室に迎えに来たついでに連弾を始める祥子さま、口でとるリズムの「1、2、3、4」と実際のピアノ演奏のテンポが全く合ってません。あと、薔薇の館の二階で白薔薇さまに「藁しべ長者」って言われたことについてぶーたれる祐巳すけ、残念ながらドラマCD版の聖さまは「藁しべ長者」の台詞は言われてませんから。
若干期待していた「おのれ柏木、両刀だったか」の台詞が無かったのもちょっぴり残念。ホモキャラを設定すること自体は許されるのになんで「両刀」という単語はTVでもドラマCDでもNGなんでしょうか。漫画版ではきっちり言ってるのに。あと今後のシリーズを通して柏木のキャラ付けとして重要なはずの「ギンナン王子」誕生のくだりがきっちり端折られてたのも無念。
アレンジの仕方で一番異を唱えたかったのは「マリア様の心」の歌詞の一節「サファイア」に関するコメント部分。最初に祐巳が「なんでサファイアなんだろう」と異を唱える部分は原作では地の文に混ぜられたモノローグだったけど、それが部外者である柏木との雑談の話題に変わっている。まぁ音声中心のドラマCDならではのアレンジで、それ自体はいい。でも、好青年好青年好青年で押している最中の柏木が「ううん、別に違和感は感じないけど」なんてにべもなく否定するか? もう少しやんわりやらないと「伏線だよ〜」ってのが意識されすぎて不自然になる。
で、稽古から抜け出した先で「マリア様の心」が聞こえてくるのに気付いた祥子さまが、「なんでサファイアなのかしらね」と言うシーン。ここも祥子さま自体に問題はない。ただ、そのあとの祐巳が「祥子さまも同じこと思ってたんだ……」ってしつこく言い過ぎるのはどうだろう。原作は、祥子さまのその台詞に祐巳が何か言おうとしたけど祥子さまはさっさと行ってしまった、という描写になっていて、祐巳の心中は読者各位おもんばかってくれ、という形。そしてそこでシーンが終わるからこそ、読者には逆に印象を強くしている。こんなあざとくしなくたって、もう少しあっさりしていても通じるし、その方が気持ちいいはずだ。
まぁ色々書いたけど、構成の若干の変更も含めた上で、アニメ版とは比べものにならないくらい、原作を尊重した良いメディアミックスではあると思います。不満はあるけど、泣いてしまったのもまた事実。でもそのくらい好きな作品だからこそ、ほんの少しの疵でも目についてしまうもの。黄薔薇革命以降のドラマCDも買う予定ですが、一番レベルの高いメディアミックスはやっぱり、マーガレットの漫画版で決まりみたいです。
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