夕凪の街 桜の国/★★★
平成16年度文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞受賞作。30ページの読み切り「夕凪の街」と、その登場人物の子や孫の現在を描く「桜の国」全2話62ページの2本。合計104ページの薄い本。
昭和30年、広島。「原爆スラム」とあだ名される、復興計画によって自分の家を追われた人々が住む集落。平野皆実は小さな会社に勤める年若い女性。ごく普通に職場の男性に恋をし、日常のふとしたはずみにその男性と接近したとき、彼女はふと、自分が踏み越えてきた、ピカで死んだ死体の山を思い出す。あの日、彼女は確かにどこかの誰かに「死ねばいい」と思われた。そして生きるのに必死だったあの数日間で、彼女は本当にそう思われても仕方のない人間になってしまった。先立っていった父に、姉に、妹に申し訳ないから、のうのうと恋なんてしていていいはずはないから。しかし彼女は、その思いごと、好いた男に告げた。そして翌日、彼女は会社を休む。それからもう、彼女は立ち上がることが出来なかった。男がくれたハンカチを握りしめながら、夕凪が終わって、風が吹いたのが分かった。物語のテーマが要請する骨組みに、かっちりはまっているとは思う。必要最低限の感動は与えられていると思う。一コマ一コマに書き込まれた、綿密に取材された当時の風俗と、広島生まれの作者による生きた広島弁と、戦争の悲惨さそれ自体を直接に描こうとせず、かといって隠蔽もしない、柔らかい手つき。評価されるに値する佳作だとは思う。
もったいないのは、ここに何かあと一つでも、読者に涙を流させる、あるいは鳥肌を立たせる、決めゴマが、決めゼリフがあれば、ということだった。本来決めゴマであるはずのコマ、決めゼリフであるはずの台詞が、ギリギリの水準で、決めきれていないのだ。手つきの柔らかさこそが作者の良さでもあるのだろうが、それでももう少しだけ、あざとく、俺を泣かせて欲しかった。惜しい。良い作品だが、四つ星には届かなかった。
小学校や中学校の図書室で「はだしのゲン」を読まなかった人には、是非読んで欲しい。戦争の悲惨さは、地に足の着いた描き方でしか伝わらないということが、よく分かる。
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